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相続財産のうち不動産の割合が大きいと、「きれいに分けられない」という問題が出てきます。現金なら1円単位で分けられますが、家や土地はそうはいきません。
そこで使われるのが換価分割(かんかぶんかつ)と代償分割(だいしょうぶんかつ)です。名前は難しいのですが、やっていることは「売ってお金で分ける」か「1人がもらって、他の人にはお金を払う」かの違いだけです。この記事では、この2つの違いと税金の注意点を、実務の順番どおりに整理します。
まず全体像です。不動産の分け方は、大きく次の4つです。
不動産の分け方4パターン。実務でよく使うのは換価分割と代償分割です。
「共有」は、その場はおさまるのですが、売るにも貸すにも全員の同意が必要になり、次の相続で持ち主がさらに増えていきます。
換価分割は、相続した不動産を売却して、その代金を相続人で分ける方法です。流れは次のとおりです。
売却代金から仲介手数料などを引いた残りを、決めた割合で分けます。
不動産を売って利益(譲渡所得)が出たときは、代金を受け取る割合に応じて、相続人がそれぞれ自分の分だけ確定申告をします。1人が代表してまとめて申告するのではありません。
これは、相続人が相続で取得した持分を、それぞれ売ったことになるためです。遺産分割協議で換価分割と決めていれば、代金の取得割合がそのまま持分になります(民法909、所法33)。
注意がいるのは、分け方が決まらないまま売った(未分割のまま換価した)場合です。このときは法定相続分で申告することになり、あとから分け方が決まっても、それを理由に申告をやり直すことはできません(未分割遺産を換価したことによる譲渡所得の申告とその後分割が確定したことによる更正の請求、修正申告等|国税庁)。売る前に取得割合を決めておくことが大事です。
売却の手続きを進めやすくするため、いったん相続人1人の名義で相続登記をすることがあります。このとき、何も書かずに代金を分けると「その人から他の相続人への贈与」と見られる心配があります。
国税庁は、1人名義の登記が単に換価のための便宜であり、代金が決めたとおりに実際に分配される場合には、贈与税の課税が問題になることはないとしています(遺産の換価分割のための相続登記と贈与税|国税庁)。そのため実務では、遺産分割協議書に「換価して代金を○対○で分ける」「売却手続のため便宜上○○名義で登記する」という趣旨を必ず書き残します。
なお、課税されるのは登記の持分ではなく実際に受け取った換価代金です。相続人3名が持分3分の1ずつで相続登記して売却し、代金は不均等に分配していた事案で、国税不服審判所は換価分割と認定し、収入金額を実際に取得した金額としました(平17.5.18裁決・裁決事例集No.69)。協議書と代金の流れをそろえることが大事です。
換価分割のよいところ
気をつけるところ
代償分割は、相続人の1人が不動産をそのまま取得して、その代わりに他の相続人へ自分のお金(代償金)を払う方法です。「母が住んでいる自宅はそのまま母に」「店舗は事業を続ける長男に」というときに使います。
不動産は長男が取得し、その代わりに長男が自分のお金で次男に代償金を払います。
代償金のやりとりは贈与ではなく、遺産分割の一部です。そのため相続税では、代償金を払った人は取得した財産から代償金を差し引き、受け取った人は自分の取得分に代償金を足して計算します(No.4173 代償分割が行われた場合の相続税の課税価格の計算|国税庁、相基通11の2-9)。受け取った代償金に贈与税はかかりません。
ここが代償分割のつまずきやすいところです。不動産には「相続税の評価額(路線価など)」と「実際に売れる値段(時価)」の2つの金額があり、ふつう時価のほうが高くなります。代償金を時価をもとに決めたときは、相続税の計算では評価額の割合まで引き直すという取扱いがあります(相基通11の2-10)。
例(土地の相続税評価額4,000万円、分割時の時価5,000万円、代償金2,000万円)でみると、次のようになります。
| 原則(代償金の額そのまま) | 時価をもとに決めた場合 | |
|---|---|---|
| 長男(代償金を払う側) | 2,000万円 | 2,400万円 |
| 次男(代償金をもらう側) | 2,000万円 | 1,600万円 |
同じ2,000万円を払っていても、相続税の課税対象になる金額が変わります。相続人全員で協議してこの方法で申告すれば、その金額が認められます。協議書に「代償金は時価をもとに決めた」という前提を残しておくかどうかで、申告の組み立てが変わります。
代償金を「お金以外」で払うと、税金がかかります
手持ちの現金が足りないからといって、代償金の代わりに自分が元から持っている別の不動産や株を渡すと、渡した人に譲渡所得の税金がかかります(所法33、所基通33-1の5)。渡した時の時価で売ったものとして扱われるためです。代償金は現金で払うのが原則と考えてください。
代償分割のよいところ
気をつけるところ
税金の面での違いをまとめます。
| 換価分割 | 代償分割 | |
|---|---|---|
| やること | 売って代金を分ける | 1人が取得し、他の人に現金を払う |
| 売った利益の税金 (譲渡所得) | かかる。相続人それぞれが取得割合で申告 | 売らなければかからない。取得した人が後で売れば、その人だけに課税 |
| 贈与税 | 協議書に換価分割の趣旨を書いておけば問題なし | 代償金に贈与税はかからない |
| 相続税 | 代金の取得割合で課税 | 払った人は差引、もらった人は加算 |
| 小規模宅地等の特例 | 申告期限前に売ると、配偶者以外は使えないことが多い | 取得した人が住み続ける・使い続けるなら使いやすい |
| 空き家の3,000万円控除 | 要件を満たせば相続人それぞれが使える | 取得した1人だけが対象 |
| 手間 | 全員が確定申告 | 取得した人だけ(売った年に) |
とくに大きいのが空き家の3,000万円特別控除です。誰も住まなくなった実家を売るときの特例で、要件を満たせば利益から3,000万円(取得した相続人が3人以上のときは2,000万円)を差し引けます。換価分割で兄弟それぞれが取得して売れば、それぞれがこの控除を使えるため、結果として税負担が小さくなることがあります(No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例|国税庁。措法35③。令和9年12月31日までの売却が対象で、売却代金の合計が1億円以下などの要件があります)。
反対に、小規模宅地等の特例は土地の評価を最大80%下げられる大きな特例ですが、配偶者以外の人は申告期限まで持ち続けることが条件です(No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例|国税庁、措法69の4)。申告期限より前に売ってしまうと使えなくなることがあるため、「相続税が軽くなる特例」と「売って分けたい」はぶつかることがあります。どちらが有利かは試算してから決めます。
なお、相続税を払った人が相続した不動産を一定の期間内に売った場合は、払った相続税の一部を取得費に足せる特例もあります(No.3267 相続財産を譲渡した場合の取得費の特例|国税庁、措法39)。期限は相続税の申告期限の翌日から3年、つまり亡くなってから約3年10か月です。売る時期を決めるときの目安になります。
| こんなとき | 向いている方法 | 理由 |
|---|---|---|
| 誰も住まない実家。兄弟は遠方 | 換価分割 | 空き家の管理から解放され、空き家の特例を各人が使える可能性がある |
| 母がこれからも自宅に住む | 代償分割(または母が取得) | 住まいを守れる。配偶者なら小規模宅地等の特例も使いやすい |
| 長男が事業・農業を続ける | 代償分割 | 事業用の土地を分断せずに引き継げる |
| 相続税の納税資金が足りない | 換価分割 | 売却代金をそのまま納税に充てられる |
| 代償金を用意できない | 換価分割 | 無理に代償分割にすると支払えず、後でもめる |
「不動産を取得した人が、その不動産を売ったお金で代償金を払う」という形もよく出てきますが、売れる時期と金額が読めないため、協議書の書き方に工夫が必要です。
1. 協議書に換価分割と書かず、1人の名義で登記して売った
代金を分けた時点で「贈与ではないか」と見られる余地が残ります。便宜上の登記であることと、分配の割合を協議書に書いておけば防げます。
2. 代償金をお金以外で払った
現金が足りず、自分が持っていた別の土地を渡した――これは渡した側に譲渡所得の税金がかかります。代償金は現金で、が原則です。
3. 申告期限(10か月)までに分け方が決まらなかった
未分割のままだと、配偶者の税額軽減と小規模宅地等の特例は当初の申告では使えません。ただし「申告期限後3年以内の分割見込書」を添えて申告しておけば、後で分割が決まったときに特例を使えます(No.4208 相続財産が分割されていないときの申告|国税庁、相法19の2・32、措法69の4)。この書類の出し忘れは影響が大きいので要注意です。
相続人がそれぞれ、遺産分割協議で決めた換価代金の取得割合に応じて申告します。代表者1人がまとめて申告するのではありません。売却手続のため便宜上1人の名義で相続登記した場合も同じです。なお、分け方が決まらないまま売った(未分割のまま換価した)ときは法定相続分で申告することになり、あとから分割が決まってもやり直しはできません(民法909、所法33、国税庁 質疑応答事例「未分割遺産を換価したことによる譲渡所得の申告とその後分割が確定したことによる更正の請求、修正申告等」)。
かかりません。代償金は遺産分割の一部なので、相続税の計算のなかで処理します。払った人は取得した財産から代償金を差し引き、受け取った人は自分の取得分に代償金を足して相続税を計算します(相基通11の2-9・11の2-10、国税庁 タックスアンサー No.4173)。
要件を満たせば、相続人それぞれが使えます。ただし取得した相続人が3人以上のときは1人2,000万円に縮小され、売却代金の合計が1億円以下であることなどの要件もあります。適用できるのは令和9年12月31日までの売却です(措法35③、国税庁 タックスアンサー No.3306)。
換価のための便宜的な登記であり、代金が決めたとおりに実際に分配されるのであれば、贈与税の問題は生じないとされています(国税庁 質疑応答事例「遺産の換価分割のための相続登記と贈与税」)。そのためには、遺産分割協議書に換価分割であることと分配の割合を書いておくことが大切です。課税されるのは登記の持分ではなく、実際に受け取った代金です(平17.5.18裁決)。
税理士からひとこと
換価分割にするか代償分割にするかは、「どちらが円満か」だけでなく、相続税と売却の税金を合わせていくら残るかで見比べると判断しやすくなります。私はいつも、売る前の段階で両方の税額を試算してお見せするようにしています。
当事務所では、相続税・贈与税の申告と、不動産を売ったときの確定申告をどちらもお受けしています。相続登記は司法書士さんもご紹介できます。遺産分割協議書を作る前の段階でご相談いただくと、選べる方法が多く残ります。相談料は基本的にかかりません。
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※この記事は2026年10月時点の法令・国税庁の公表資料に基づいています。個別の事情により結論が変わることがありますので、実際の判断は税理士にご確認ください。
【この記事の根拠】
※略記=民法/所法(所得税法)/相法(相続税法)/措法(租税特別措置法)/所基通・相基通(各基本通達)。丸数字は項。
執筆:税理士 石黒 賢(近畿税理士会 茨木支部・税理士登録番号 147227/大阪府高槻市)